とある国の王宮、その離れに少女はいた。

空はすっかり黒く染まり、4月にも関わらず少し肌寒い。

離れの広さは六畳と、巨大な王宮に対して余りに小さ過ぎる。
離れと言うより“小屋”のように見える。
その中は小さなクローゼットに小さなベッド、ミニテーブルにイスと、必要最低限の物しか置いていない。

十代前半の年頃のその少女は薄暗い離れの小さなベッドの上で膝を抱え、嗚咽を口から漏らしながらサファイアのような碧い瞳を濡らしていた。
涙は少女の頬を伝い、寝具の上へと落ちていきそこで小さなシミを作る。


そんな少女の状態を知ってか知らずか“コン。コンコンコン”と4回のノックを1回と3回に分けてする音が聞こえた。
この王宮で離れにノックする人間は3人しかいない。
その中でもこんな独特なノックをするのは彼しかいない。

「俺だ」

案の定、扉の向こうから聞き慣れた声がする。
しかし少女は嗚咽を漏らすのと瞳を漏らすので忙しく、その声に応える暇などなかった。
すると、応えていないのにも関わらず“入るぞ”とだけ言う声が聞こえた後、静かに扉が開いた。


その扉から現れたのは少女よりも僅かばかり年上に見える少年だった。
その少年はベッドの上で膝を抱える少女を見つけると真っ直ぐ彼女の方へと歩いていき、その左隣に腰をかける。

「また、何か言われたのか?」

少年は少女の方ではなく、真っ直ぐ前を見ながら優しい声色で尋ねた。
少女は膝を抱え顔を埋めたまま、それに答えるように小さく頷く。

「何かされたのか?」

少年は先程と同じ様に真っ直ぐ前を見ながら、しかし声色には少し怒りを交えて尋ねた。

「うん・・・っ」

俯いたまま震える声で小さく応える少女。
そんな少女の方に顔を向けると、少年は自身の琥珀色の瞳を僅かに揺らしながら、少女のホワイトに近いプラチナブロンドの髪をわしゃわしゃと撫でる。