◆第一章*高校デビュー



「……完璧」

 おろしたての高校の制服に身を包み、洗面所の鏡の中の自分に向かって余所行きの笑顔を投げかける息子の姿を見て、黒崎亜希子(くろさき あきこ)は額に手を当て小さく頭を振った。

「はいはい、イケメン、ハンサム、いい男っ。――ほら、早くご飯食べちゃって。入学式、遅刻しちゃうわよ」


 母に背中を押され、伊織(いおり)は渋々と洗面所から台所へと移動する。

 テーブルの上にはすでに朝食が用意され、出勤時間の迫っている父親の雄悟(ゆうご)は空になったプレートにフォークを置き、コーヒーを飲み始めたところだった。