ー チャイムが鳴る ー

息を切らしながら、全力で階段を駆け上り、廊下を走った。

反対グループの教室についた。


「ふぅ〜…」

深呼吸をして息を整えて教室の後ろの扉を開けた。
みんなが一斉に振り向いた。


「…あの…三浦くんいますか?」


自分でもびっくりするほど小さな声…
自分の声が大きく脈を打つ心臓の鼓動でかき消される


「…あの…三浦くん…先生が…呼んでる…」

顔を下に向けたまま、頑張って声を張った。

「あら…何かあったのかしら…三浦くん、行って来なさい。」


先生が少し驚いた様子でそう言った。


『…はい。』

拓也の声が聞こえた。

懐かしい声だった。

いつも私の1番近くにいた声。私が1番安心する声。私の1番大好きな声。…誰よりも、愛しい声。


その大好きな声が胸を締め付け、
涙がどんどんこみ上げる。

私は、先に教室から出た。


1分も経たないうちに、拓也も廊下に出てきた。


「…こっち」

私は拓也の腕を掴んで、早歩きで引っ張った。

『…え、どこ行くんだよ…』


拓也の声に涙が止まらない。


今、拓也の腕を掴んでいる。


どこかに行ってしまわないで…


自分の心の叫びがはっきりと聞こえた。


学校を飛び出して、近所の小さな公園に来た。


『…なんだよ…どうしたんだよ…』

息切れしながら拓也が言った。

私は必死で息を整える。


ゆっくりと口を開く…



「…七海ちゃんの事、好き?」


『は??…なんだよ』


「…好きなの??」



『………ああ。』



「…なに?はっきり言ってよ!!」


『好きだよ!』

怒ったように…半分ヤケクソのように、拓也はそう言った。

「……私は?ずっと一緒だった私の事は?好きじゃなかった?」

涙をいっぱい溜めた瞳で拓也に話した。

拓也はびっくりした表情をして動かない…

「私は…ずっと拓也が好きだった。大好きだったよ。」


『…お前、昔…俺のこと恋愛対象じゃねえって…ずっと言ってよな』


勝手なのは分かっていた…
私は下を向いた…


「気づくのが…遅かったの」


『…本当、遅えよ…』


拓也の声が震えていた。
顔を上げると、拓也が少し後ろを向いて泣いていた。

「…なんで泣くの?」

『…うるせえよ。お前もだろ…』

拓也の横顔は大粒の涙が流れていた。


「…拓也の事、ずっと応援するって、お互い支え合うって言ったけど…私…七海ちゃんの事、応援できなくて、ごめんなさい…」


拓也が好きだ。大好きだ。
誰かのものになるなんて今まで考えた事もなかった。

なんだかんだ拓也とはずっと一緒にいると思っていた。


失って初めて気づく事が本当にあるのだと知った。
失った存在が、私にとってどれだけ大きくて大切な存在だったか、痛いほど感じた。


この数ヶ月…心はいつも空っぽだった



拓也が家に来る事も無くなって、
家で一人で見るバラエティー番組は全然面白くなかった。


「拓也が…好きだよ」


『…ごめん』


当然の結果。気持ちを伝えた事は大きな進歩…でも伝えただけじゃ何の意味もなくて、心は空っぽのままだ。


拓也は走って学校へ戻っていった。

急に足に力が入らなくなって、しゃがみこんだ。


いつかこの隙間を埋めてくれる人が現れるのかな…

もしそんな人がいるなら、はやく私の前に来て、すぐにでも抱きしめて欲しい…そう願った。

そう強く思えば思うほど、悔しいくらい拓也の顔が思い浮かんだ。