なにか話題、なにか話題...

「な、なんで傘持ってるの!?」
ばか。なんでここで“傘”の話題を出すか、自分よ。

しかし、今日の降水確率は0%
昨日は持ってなかったくせに、どうしてわざわざ今日は持ってくるのか。

「昨日、置いてったから...」

は い ?

「昨日ないって言ってたじゃん、なにそれー!」

思わずいつものノリになってしまった。

「だ、だって、二人共傘さしたら並んで歩けねぇし!!無いことにするのがいいと思ったんだよ!!悪いか!!」

なるほど。

じゃないよ!こら!

「別に嘘つくことなかったでしょ!?
あたしは、瑛星が私のことを都合のいい奴だと思ってるんじゃないかって、少し寂しかったんだからね!?」

「んなわけねぇだろ!好きだからだろ!?」

─どきん。

急に二人共黙り込む。

「...昨日、ごめん。素直じゃなかった。」

「いや、俺こそ悪かった。ただ、俺の前では素直でいて欲しい。.....絶対嫌いになったりしないから。」


あたしが飲み込みやすいようにだろう。

“好き”ではなく、“嫌いにならない”という表現を使ったのは。

そんな細やかな優しさに、瑛星を好きになれない自分を責めたくなった。

そんなこんな話しているうちに、駅についた。

「じゃあな。」

向かいのホームに向かう瑛星。

ホームに着くと、瑛星も丁度降りてきた。

笑顔で手を振る。

そしてまもなく、あたしたちの間を電車が遮り、通り過ぎると瑛星の姿も消えていた。