その背中を、僕は追いかけることが出来なかった。

ベンチにドサっと情けなく座り込む。

最後の言葉が嘘なことくらい、わかる。

物心つく頃にはそこにいて、僕のアルバムの至るところにいる彼女のことは、何でもわかっている、そう思っていた。

でも、一番大事なことに気づいていなかった。

遅かった、ほんの少し。

時間はたっぷりあったのに。

でもそのほんの少しが、あの涙にかわった。

なっちゃんの涙など何度も見た。

泣き虫なっちゃん。

それでも、今日の涙はいつの涙よりも重くて、深い。

僕を想ってくれていた。ずっと、ずっと。

僕だって同じだった。

ただ、きっと伝えられなかった理由も全く一緒で。

どうしたら僕らは、正解にたどり着けたのだろう。

僕にほんの少しの勇気があれば。もっと早く。

上を向いて、深く息を吐くと、涙が流れて止まらない。

耳まで伝うその涙。

すると、頬に水滴が落ちる。

雨だ。

もう、どれが雨でどれが涙かわからない。

むしろ、雨でまぎれて丁度いいと思った。