正義の人

 「また、出直すわ。」
十数秒の沈黙後、最後となる言葉を残しクレーマーは銀行から出ていった。
 立ち尽くしたまま、傍観者になってしまっていた私は、我に帰り、急ぎ足でロビーに向かった。
「どうも、お騒がせ致しました。」
軽くお辞儀をし、平穏回復へ向けての無難な言葉を発した後、私は小柄な勇者の元へ向かった。
「本来、私共で対応すべきところを、ご配慮頂きまして、どうもありがとうございました。」
私がお礼を述べると、男性は私を一別し
「いえっ‥。」とだけ答え、すぐに目線を自分の手元のスマートフォンに移した。
これ以上は構わないで欲しいという、彼の気持ちを察し、私は軽くお辞儀をしてから自身の席に戻った。
 クレーマーであろうと、お客様である以上、行員の私には当然彼のような物言いは出来ない。本来なら、今頃私はクレーマーのストレス解消の為に口撃を受け続けていただろう。正直、助かったというのが本音