食事が始まってしばらくは、学校の話やお父様の日常生活の話とか差し障りのない話題についての会話が多かった。

だけど、デザートに差し掛かったところで両手を組み、こちらをじっと見るお父様と目が合うと、空気がガラッと変わった気がした。


「伽耶さん」


名前を呼ばれて背筋を伸ばし、「ハイ」と返事をする。


「今日はホントにありがとう。こうして会えてよかったよ」

「こちらこそ、ご馳走さまでした」


頭を下げてお礼を言うと、お父様は組んでいた手を解いた。



「さぁ、本題に入ろうか」

今度は要さんに目を向けたお父様。

要さんはコーヒーカップに手を伸ばしただけで、やっぱりお父様とは目を合わさない。

お父様はもう一度私を見ると、こう切り出した。


「婚約の事を、来月にも世間に向けて正式に発表しようと思ってる。その前に2人ときちんと話がしたくて、今日はこうして来てもらったんだ」


『正式』という言葉を聞いて、肩に力が入る。

今までは形だけのものだと思っていた婚約の話が、急に現実味を帯びてきた。


「きちんと見合いという形も取らず、急に当人同士を住まわせてやり方は強引だと思ってる。それに…大人の都合で子どもを巻き込むことを、私は避けたいと思ってた」


キリッとした表情を崩したお父様の顔が、僅かに曇る。


「……でも、西園寺家にとっても、藤島家にとってもこの婚約は大きな意味を持つし、それは会社の今後にも多大な影響を与える」


静かな部屋には、お父様の声だけが響いていた。

私は隣にいる要さんをチラリと見たけど、彼の表情からは何を考えてるかは分からなかった。