「やぁ、いらっしゃい」


緊張した面持ちで案内された個室に入ると、にこやかな笑みを浮かべたお父様の姿が。

落ち着きのある風格で、要さんが大人になったら、きっとこんな風になるんだろうな、と思うくらい2人はよく似ていた。


「初めまして、藤島伽耶です。本日はお忙しい中、お招きいただきありがとうございます」

「いやいや、こちらこそ予定を狂わせてしまって悪かったね」



席に着くよう促され椅子に座ると、すぐにスタッフの人が料理や飲み物を運んでくる。


「伽耶さんは体調が悪いと耳にしたけど、もう大丈夫なのかい?」

「はい、昨日1日ゆっくり休ませてもらったので」


「ならよかった」と笑ったお父様は、今度は要さんに目を向けた。


「……お前は、体調崩したりしてないのか?」

「ええ」


要さんは窓の外に目を向けたまま、そう答えた。

2人の会話はそれだけで、要さんはお父様と目を合わせることもなかった。

そんな様子を特に気にする訳でもなく、再びこちらを見たお父様は、「そんな畏まらないで、今日は楽しんでもらえたら」と言ってグラスを手に取った。


気さくな笑みを浮かべるお父様は、要さんのいうように『怖い父親』という印象は見受けられない。


こうして和やかな雰囲気の中、食事会はスタートした。