「まもなくニューヨークに到着します」


機内で朝食を食べ終えてから暫くして聞こえてきたアナウンス。

私は読みかけの本をパタンと閉じて、ハンドバッグへしまった。

隣に目をやると、要さんも同じように本を閉じるところだった。



私の視線に気づいた彼がこちらを見る。


「...眠れたか?」


要さんは、首を軽く回しながらそう尋ねてきた。



「あまり...。こういう場所では寝つけなくて」



心なしか、少し軽い頭痛があるような...。

長時間のフライトは久々だったから、体も疲れたんだろうか。



「空港に着いたらすぐに迎えが来るそうだ。親父と会うのは今日の夕方だから、ホテルに着いたら暫く休むといい」


「そうします」


「あと...」


要さんはそう言うと、手に持っていた本を差し出してきた。

出発前にラウンジで見た、私が好きな作家の本だ。



「読むか?」



思いがけない言葉。

だけど、それは私にとってものすごく嬉しい質問だった。

実はずっと、その本が読みたくてウズウズしてたから。



「いいんですか?」


私がそう尋ねると、要さんは「ほら」と本を手渡してくれた。



「飛行機の中で読み終わったからな」



という彼に、私は思わず笑顔になって「ありがとう」とその本を受け取った。





以前なら考えられなかった彼の言葉。

その気遣いが、やっぱり少しだけ嬉しかった。