「では、いってらっしゃいませ」



空港に着くと二宮さんと別れ、空港のスタッフに専用のラウンジへと案内された。

私達が乗る飛行機は、西園寺グループの自家用ジェット機。

搭乗の手続きを済ませた後、フライト時刻までラウンジで時間を潰すことになった。

要さんの向かい側のソファに案内された私は、ゆっくりと腰を下ろす。

彼は何度もココを利用しているらしく、慣れた様子でスタッフを呼びつけ、コーヒーの注文をしていた。



「...何か飲むか?」


チラリとこちらを向いて、そう尋ねる要さん。


「じゃあ、ミルクティーを」


それを聞いたスタッフの人は「かしこまりました」と一礼して、部屋を出ていった。



2人きりになり、私は少し気まずい気持ちでいた。

というか、緊張していた。

要さんからは、そんな様子は微塵も感じないけど。



「あ」


ソファに座る要さんの手元を見て、思わず漏れた声。


「…何だ?」

「あ、いや…その本ってイギリスの作家の?」


彼が持っていた本の背表紙には、私の好きな作家の名前が。

イギリスで発売されたばかりの小説で、日本ではまだ出回っていないものだ。



「間島に取り寄せてもらってたものが、今朝届いたんだ。...知ってるのか?この作家」


「もちろん!ルース・バークリーの本は、全部読んでます!緻密なトリックはもちろん、言葉の言い回しも素敵で好きだし」



少し興奮気味に話す私を見て、一瞬驚いた表情を見せた要さん。

でも、すぐにクックッと笑い出す。

ハッとした私は、何だか恥ずかしくなって口を噤んだ。



「意外とよく喋るんだな」



そう言って要さんが、普段私には見せない顔でフッと笑った。

それで緊張が少し解れた私は、その後フライト時刻まで彼とちょっとだけ話すことが出来た。