『そうやって外堀から埋めるつもりか?したたかな女だな』



何をどう勘違いされてるのか分からないけど、要さんが私に向ける敵意は相変わらずだ。

初対面の日に「何が何でも結婚します」みたいな態度がやっぱり気に入らなかったんだろうか。

そりゃ大事にしている彼女がいるのに、親が勝手に決めた婚約者が現れたら怒る気持ちも分かるし、受け入れられない気持ちだって理解出来ないこともない。

だけど、使用人や生徒会の人間と仲良くしたからってそんな風に受け取られるのは心外だった。



歩み寄ろうとして続けている朝のあいさつも、手作りクッキーもことごとく失敗に終わっている。


それは多分...両親の期待に応えるため、と思ってやっているのがよくないのかもしれない。


そこに、彼に対しての気持ちが入ってないから何をやっても上手くいかない気がしてきた。



「...どうすればいいの」



私だけが必死になっても、解決出来る話じゃない。

親同士が交わした契約とはいえ、要さんの気持ちが変わらない限りはすんなりと結婚とまでは行かないだろうし。


さすがの私も、あそこまで露わに嫌悪感をぶつけられては心が折れる。



「...無理だよ、こんなの」



思わず零れた弱音。

それは誰に届く訳もなく、静かな暗闇に消えてしまった。