「「「おかえりなさいませ、要様」」」


大勢の使用人に迎えられ、その真ん中を足早に歩いていく。

「おかえりなさいませ」と傍にやってきた間島に返事をすると、俺はネクタイを少し緩めた。



「俺の部屋にコーヒーを持ってきてくれ」


「かしこまりました」


間島が離れ、1人廊下を歩いていると、メイドたちと談笑するあの女の姿が目に入った。

女は俺に気付くと、ハッとした様子で「おかえりなさい」と頭を下げた。

周りのメイドも俺に挨拶をし終えると、慌てて持ち場へ帰ってく。

残された俺と、女。

いつもなら、ただ素通りして終わった。

でも、今日はーーー。



「ウチの使用人と随分親しくなったみたいじゃねぇか」


俺から話しかけるのは、あの日以来。

だから、女は少し驚いた表情でこちらを見ていた。


「メイドや運転手からのお前の評判は上々だぜ?」


ニヤリと笑って女を見ると、少し戸惑った表情で俺を見つめる。


「……そうやって外堀から埋めるつもりか?したたかな女だな」

「な、違います!」


俺の言葉にムッとした表情で、そう言った。


「園芸部にも入ったんだろ?東條もお前のことベタ褒めだったしな」


口を紡ぐ女を横目に、俺はじっと睨みつけた。



「何企んでるか知らねぇが、俺の意思はこの前と変わらない。それでも結婚に固執するなら、俺だって黙っちゃいねぇよ」


それだけ言うと、女の横を通り過ぎた。

ちらりと顔を見ると、女は唇をギュッと結んでただ黙ってるだけだった。