「伽耶様」


バタンと閉じられた扉を、暫くボーっと見つめていると後ろから間島さんの声が聞こえた。

「ハイ」

そう言って振り向く時には、先ほどの表情は消し去って、何でもない風に笑顔をつくった。


「何ですか?」


私がそう尋ねると、間島さんはいつかも見せたような困った笑顔を浮かべてこちらを見ていた。


「私ごときが申し上げることではありませんが、どうか要様のご無礼をお許しください」


頭を下げる間島さんに、私は慌てて顔を上げるように言った。

すると、間島さんはどこか寂しそうな表情を浮かべていた。



「本当は、心優しいお方なのです」



そう間島さんが言った時、いつもと違った顔で彼女の隣に座っていた要さんの事を思い出した。



間島さんと要さんは幼少期からの付き合いだと聞いている。

だから、間島さんが言うように彼が”心優しい”のは本当なんだろう。

ただ、私はその優しさを向ける対象ではなかっただけ。

あんな態度を取られて仕方がないことは、充分承知している。


「間島さん、お気になさらないでください」


でも、私だって今更後には引けない。

この身に、藤島家の繁栄と両親の期待が降りかかっているのだ。

たとえそれが意に反することだとしても、私には拒否することなんて出来ない。


「まずは少しでもお話が出来るよう、頑張ってみます」


私はそう言って笑顔を見せてみたけれど、この先どうすればいいのかと途方に暮れていた。