次の日の朝。

普段なら三上さんが呼びに来るまでは部屋を出ないけど、今日は違った。

いつもより早めに支度を終え、部屋を出て玄関に続く階段に向かった。

理由はもちろん、彼に会うためだ。




階段を降りる途中、玄関のところで間島さんと話す要さんを見つけた。

制服を着て、手にはかばんを持っているから、もうココを出るのかもしれない。

そう思った私は、急いで階段を駆け下りた。


「要さん」


面と向かって名前を呼ぶのは初めてで、緊張で声が震えそう。

だけど、それを悟られないように姿勢を正して彼を見据えた。


「おはようございます」


私がそう言うと、刺すような眼でこちらを見る要さん。

この態度は相変わらずのようだった。


「……何だ」


険悪な雰囲気に、隣にいる間島さんが少し心配そうにしている。


「あの、」


私が喋る間も、ずっと鋭い視線は変わらない。

それが少し居心地が悪くて、言葉に詰まる。



「一度ゆっくり話しませんか?…婚約の話云々は抜きにして」



意を決してそう言うと、要さんを見つめる。

だけど、返ってきた答えは―――。





「俺は話す事なんて何もない」


キッパリとした口調でそれだけ言うと、彼は玄関の戸の方へと歩いていく。




「、いってらっしゃい」



私は前を向いたまま、こちらを見ない要さんの背中にそう投げかけた。


「......」


もちろん返事などあるはずもなく。

扉がバタンと閉まる音が、しんと静まり返る広い玄関にやけに大きく響いただけだった。