それから2時間後。

丁度フランス語の課題を終えた頃に、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。


「どうぞ」


ドアの方に目を向けると、メイドの三上さんが現れた。

彼女は主に私の世話係をしてくれている、比較的歳の近いメイドさん。

いつも下の方でお団子をつくった髪型で、黒地のシンプルなデザインのワンピースに、白いフリルのついたエプロンを品よく着こなしている。

私よりも5、6歳年上と聞いているけど、童顔なのか見た目はとっても可愛らしい。



「夕食の準備が整いましたので参りました」


「ありがとうございます」



私は机に広げたノートとテキストをしまうと、立ちあがった。

ドアを開けてくれている三上さんの横を通り、大広間へと続く階段の方に足を進めた。





「…あの、三上さん」


少し後ろを歩く彼女の方を向きながら、長い廊下を歩く。


「はい、何でしょうか?」


「要さんと…まだ一緒にご飯、食べられそうにないですか?」


私が尋ねると、申し訳なさそうな顔をした三上さんがこちらを見る。


「申し訳ありません。要様には再三間島さんが、一緒に食事を摂るよう申しておるのですが」


「そうですか...」


思わず零れそうになった溜息を飲み込んで、また前を見ながら歩く。

そして、どうしたものかなと考えながら1段1段階段を降りていった。