そこには、冷たい印象ではなく、どこか柔らかい雰囲気が漂う彼の姿があった。



隣に座る彼女は、茶色でロングウェーブのフワフワした髪を指にくるんと巻きつけている。

ぷっくりとした唇に、高い鼻。

クリクリの二重瞼の瞳は、フランス人形みたいに可愛らしい女の子だった。



2人は何を話しているのか分からなかったけど、彼女がクスクスと笑うと要さんがフッと頬を緩ませ彼女の頭を小突く。

そんな雰囲気を見て、これまでの彼の態度に合点がついた。



ーーーなんだ、そういうことか。



あの女の子は、要さんの彼女なのかも。

そう思えば、彼の私に対する冷たい態度にも納得がいく。

彼女がいるのに、両親が勝手に連れてきた婚約者なんかと結婚出来るか。

そんなトコだろう。



私が見ているのにも気付かず、2人は仲睦まじくベンチに並んでいる。

彼女が持っていたクッキーを要さんが食べる。

その時に彼が見せた顔に、私は悔しさを感じた。



私だけが彼の事を考えている。

こうして彼がいない場所でも、頭の中は彼で埋めらていたのに。

そんな彼の中には、きっと私の存在なんてちっぽけなモノなんだと思うと悔しかった。



婚約者なんて形だけの彼のことなんて、どうでもいい。

私のことを見てくれなくたって。

そこに愛なんて感じられなくても構わないと思っていたはずなのに。


向けられた優しさにはにかむ彼女が、この時少しだけ羨ましく思えた。