温もりを抱きしめて【完】

辺りもすっかり薄暗くなり、人気もほとんどなくなった。

太陽が沈み、暖かな陽射しもない今は、ジャケットを着ていても少し肌寒さを感じた。

パーク内を歩き回り、最後にまたガーベラが咲く花壇に戻ってきた。



ココで要さんに婚約破棄の話をしてから数時間が経った。

それが夢だったのかと思うくらい、この景色は空の色以外変わっていなかった。


花壇の側にしゃがみこみ、近くにあった白色のガーベラに触れる。

強く、凛と咲くこの花は、やっぱりいじらしくて可愛かった。


白色のガーベラを見て思い出すのは、昔京都の公園で一緒に遊んだ男の子のこと。

そして、この花を私が好きだと知って…ココへ連れてきてくれた要さんのことだ。



ガーベラを見つめる私の目からは、また涙が溢れてきた。

あれだけ泣いたのに、このガーベラを見ると思い出してしまう。


要さんの、優しさを。


この涙を誰にも見られないように、両手で顔を覆う。

だけどいくら手で隠しても、溢れ落ちる涙が止まることはなかった。



「………っ」



泣いても泣いても、消えない想い。

むしろ大きくなったそれを、これから私はどう昇華させたらいいんだろう。



「破棄なんてしたくなかった……っ」


要さんには決して言えなかった私の本心。

だけど今、私を見ているのは目の前のガーベラだけだ。

優しげに咲くこのガーベラ達の前だけだったら、その想いを口にしても許される気がした。



「要さんと、一緒にいたかった……っ」



そよそよと吹く風の音が聞こえる。

その風に乗って、私のよく知っている香りが鼻をかすめた。




「……それがお前の本心か?」




ふわっと後ろからかけられた何かのお陰で、寒さが少し和らぐ。

顔を覆っていた手をどけると、私がよく使っているお気に入りのストールが目に入った。




―――どうして?




そう。

驚いて手が止まってしまった私の頭上から聞こえてきたのは他の誰でもない……要さんの声だった。