温もりを抱きしめて【完】

部屋に着くと、ハンドバッグを机に置き、くるりと後ろを振り返った。

要さんはバタンと閉まったドアの扉にもたれて、こっちを見ている。



「どうぞ、座ってください」


右手を差し出し、そう言ってみたけれど、要さんはドアの傍から動こうとはしなかった。


「三上さんにお茶を持ってきてもらい」

「いや、いい」


間を繋がなくては、と思って受話器を手に取ろうとした私の声を要さんは遮った。

ようやくドアから離れ、私の傍までやってくる。



「...怪我は大丈夫なのか?」



要さんの目線が、かすり傷なのに大袈裟に巻かれた包帯に向いた。


「ハイ。ちょっとかすり傷がついただけなんですけど、一応って言われて」


私の声を聞いているのか、いないのか、要さんはじっと包帯を見つめたまま黙ってしまった。



「あの、心配おかけしてすみませんでした。大したことないので、もう大丈夫ですからっ!」



私がそう言うと、要さんは私を見つめた。



「.....違うだろ?ホントに言いたいことは」

「ホントにって...」



ソファの縁に腰かけた要さんは、小さく溜息を吐いた。



「さっきからお前は周りばっかに気遣って...」

「でも、私の不注意だか...っ!」



「不注意だから」そう言いたかったのに、その言葉は続かなかった。

気付けば手を引っ張られ、私は彼の腕の中にいた。

その温かなぬくもりが、私の心拍数を上げる。



「他人の心配ばっかしてないで、ちょっとは自分の心配しろ」



声が、耳元で聞こえる。

低く胸に響くその声に、私は安心した。

すると張り詰めていた糸が急に切れて、私の手は震えだした。