しんと静まり返った廊下を走りながら、先ほどの彼女の言葉を思い出す。


『きっと、素敵な人だって思ってる』


そんなことを言える彼女に、私は勝てないと思った。



どうせなら、彼女がもっと意地悪な人ならよかった。

いっそ、「私の彼氏を奪って…許せない」と…そう罵倒された方がマシだった。




「夏希ちゃん!」

たくさんの書類を抱えて生徒会室に入ろうとしている夏希ちゃんを見つけた私は、大声でその足を呼び止めた。


「伽耶、どしたの?そんなに慌てて…」

不思議そうに私を見る夏希ちゃん。


「藤堂さんが…この前の女の子達に捕まっててっ…C棟の裏、行ってあげて…っ」


それを聞いた夏希ちゃんは、状況を瞬時に把握したみたい。


「これ、お願い!」


そう言って手元の書類を手渡して、私が来た道を走っていった。



私が助けに行く、という選択肢もあった。

でも、私が彼女の立場なら婚約者から情けをかけられるのはある種屈辱的なんじゃないかとも思った。


ーーーいや、彼女はそんな事思わないのかも。


きっと『助けてくれてありがとう』って、私にも笑いかけてくれる。

そんな気がした。


だって、あの要さんが大切に想ってる彼女だ。

悪い人な訳なかった。



私が選んだ道は正しかったのか。

そんな思いが頭をよぎる。



渡された書類を胸に抱えながら、私は暫くその場で立ち尽くしていた。