学校に通い出して分かったのは、彼が思った以上に他の生徒から人気が高いということだった。



始業式の日。

『次は生徒会長の挨拶です』と司会の声が聞こえたかと思うと、周りがざわざわとし始め、彼が壇上に上がれば、辺りからは黄色い声が聞こえてきた。



『西園寺様よ!』

『今日もかっこいい〜!』

『見惚れちゃうよね〜!』



そんな周りの様子はいつもの事らしい。

女子からは歓声が、男子は憧れの眼差しで彼に目を向けていた。

それだけでなく、さらに驚いたのは彼が教壇に手をついて前のめりになると、その歓声が一斉に止んだことだった。

生徒達を見渡した後、ニヤリと口元を上げた彼。



『今日から新学期が始まる。春休み明けで緩みきった姿勢は、今日からしっかり正していけ』



力強い、堂々とした声から始まった挨拶は、生徒達の心をしっかりと掴んでいるようだった。

生徒や教師、この体育館に集まる全ての人の視線を集める圧倒的なカリスマ性。

一見偉そうに聞こえる口調だけど、なぜかそれが不快に感じないそんな雰囲気が彼にはあった。



壇上で話し続ける彼を見ながら、この人はホントに私の婚約者なんだろうかと考えていた。

棘のある声色で私を拒絶した彼は、どこまでも冷たい瞳をして私を見つめていたのに。

今目の前にいる彼は、そんな彼とは違って見えた。



『以上』




と締めくくられた挨拶の後、お辞儀をする彼に大きな拍手が送られる。

体を起こした彼が颯爽と壇上から去っていく背中は、やっぱり家で見た背中と少し違って見えた気がした。