だからこそ、夏希ちゃんには今の私の気持ちをちゃんと伝えておきたかった。

他の誰にも言うつもりはないけれど、彼女だけには知っておいてて欲しかった。




「...夏希ちゃん」

「ん?」



静まり返る教室に、私達の声以外何も聞こえない。

首を傾げて私を見る夏希ちゃん。



「...夏希ちゃんには、ちゃんと言っとく」



私の言葉に、彼女の目が真剣な眼差しに変わった。




「私、要さんが好き」




自分以外の誰かに、初めて話した私の気持ち。

言葉にするとそれがより現実味を増し、強くなる。

夏希ちゃんの目は見開かれて、ハッとしたような顔になった。



「彼が、彼女のことすごく大切にしてたのは知ってる。今でもきっと2人は想い合ってて...私と婚約したのだって、会社の...お父様の為だってことも分かってる」



それが要さんにとっての、ベターな選択だった。

彼のその想いを理解した上で、私はこの婚約を飲んだ。



だけど、彼を好きと自覚した今。

脳裏には、ベストな選択を取らなかった要さんの心がココにないことがいつも過ぎる。


ニューヨークの夜景を見つめて、グラスの氷をクルクル回していた姿も。

屋敷のテラスで月を見上げていた横顔も。

いつもそこには、憂いを帯びた陰が見えた。



ホントは私じゃなく、彼女と一緒にいたかったはずだ。

私じゃなく、彼女と共に生きたかったはずだ。



そんな事は、私だって十分分かってる。

それでも―――。



「それでも、いいの。たとえ他の誰かを想ってても...それでも傍にいたいって、こんな気持ちになるのは初めてだった」



いつの間にか頬には、涙が伝っていた。

ポンポンと頭を撫でてくれる夏希ちゃん。

それが余計に胸にきて、私は初めて人前でこんなにも泣いた。