「……素敵な両親ですね」


私がそう言うと、要さんは「…あぁ」と短く答えた。

その横顔はやっぱり陰があり、憂いを帯びているように感じた。



今、要さんは何を考えてるんだろう。

何を感じて、何を思ってるんだろう。



それが気になった私は、涼しげに髪を揺らしている要さんの横顔をじっと見つめた。



「……何だ?」


私の視線に気づいた彼がこちらを向く。

目が合った瞬間、また胸がギュッとなった。

そして…射抜くような瞳に、私はいつも囚われてしまう。



月明かりに照らされた、その顔を見る度に感じるこの気持ち。

ひどく胸が苦しくなって、締めつけられるこの感情が溢れ出す。




親に決められた婚約者と結婚することは、ずっと前から決まってた。

政略結婚の相手になんか、何の感情も抱かず。

ただ書類だけで繋がった夫婦になると漠然と、そう思っていた。

だけどーーー。



彼の何気ない優しさに、これほどまでに心を揺さぶられて。

彼が頭を占める割合が少しずつ増えていって。

いつしか私の中で、小さな想いが生まれてしまった。



『要さんが好き』



この婚約はビジネスの為に決められたもので、彼には想い続けている人がいる。

胸の内には葛藤と、ためらい。

でも、彼の知らなかった一面をひとつ知る度に、惹かれてく心に……もう目を背けられないと気が付いた。


「伽耶?」



美しい月が浮かぶ夜空の下。

彼の口から名前が紡がれると、どうしようもなく泣きたくなった。



嗚呼。

恋ってこんなにも切ないんだ。



それを初めて、私は知った。

無理矢理作った笑顔を見せて、「何でもないですよ」と返す。

要さんはそんな私を不思議そうに見てたけど、構わず続けた。



「そろそろ中に入りましょうか」


そう言うと、要さんは庭にある時計にチラリと目をやってもう一度私を見た。


「…そうだな」


クルリと背を向けて歩き出した要さんの後に続いて、私も足を踏み出した。



今夜自覚したこの想いが。

どうかこれ以上大きくなりませんようにと、そう願いながら……。