温もりを抱きしめて【完】

それから夏休みの間は、夏希ちゃんと顔を合わせる機会がなく結局最後の日を迎えた。

もともと8月の後半は、家族旅行で夏希ちゃんが来る日は少なかった。

その上、他の部員との交流も増やした方がいいということで夏希ちゃんとペアになる日もなかったから仕方ないけど。

それでも連絡を取って会うのは、まだ憚れて今日になってしまった。




「……こんなトコにいたのか」


声がして振り返ると、扉に手をついてこちらを見る要さんがいた。

白いシャツに、黒のパンツ。

シンプルな装いにも関わらず、彼が着ると何でも様になってしまう。


「どうかされましたか?」


私は大理石の柵に手をついたまま、彼に尋ねた。



「三上が探してたぞ。お茶を持ってったら、伽耶がいないって」


そう言えば、食後に部屋に来るって言ってたっけ。

料理長がおいしいケーキを作ってくれたから、いかがですか?としばらく前に三上さんと話したことを思い出す。



「すっかり忘れてました…。すぐ部屋に戻ります」


そう言って足を踏み出そうとした時、要さんがこちらに近づいてきた。

私は思わず動きを止めた。



「……月を、見てたのか?」


外へと出てきた要さんを、月光が照らす。

彼の低い声が、静かな夜によく響いた。



「ハイ……。月が綺麗で、もっと近くで見たくて……いつの間にかこのテラスに来てました」


空を見上げる要さんに倣って、私も月に目を向けた。

大きく、丸い月。

なぜか目を奪われてしまう、そんな月だった。