「……でも、少なくともそんな奴らとお前は違った」

「そう、ですか……?」


じっと私を見つめてそう言う要さん。

だけど、その顔が少しだけ切なげに曇ったのを私は見逃さなかった。



「あぁ。……だから、婚約者として選ばれたのが伽耶でよかった」



その言葉を聞いて、私の心はまたギュッと掴まれたように苦しくなった。

「よかった」なんて言うけれど、ホントに望んでた結果はこうじゃなかったはずだ。

まるで自分に言い聞かせるようにそう言う要さん。

きっと、今だって……彼女のことを想ってるのに。



『だって水織と会長は、あんなにも…あんなにも想い合ってたのに…っ』


あの時夏希ちゃんが言ってた言葉を思い出す。


誰が見たって、2人はお互いを大事に想ってたのに。

そんな2人が一緒になるのが、ベストな結果だったはずなのに。



「……要さん」


少し俯いた私は、私の手を掴んでいた要さんの手を見つめた。

ゴツゴツした男らしい手。

その手に触れられただけで、苦しくなる。


「……無理、しないでください」


向けられた優しさを嬉しく感じると同時に、戸惑いも感じてた。

あんな態度を取ってた私に、どうして優しく出来るのか不思議だった。



だけど、さっきの要さんの言葉で全部分かった。

要さんは、無理やり彼女のことを忘れようとしてる。

それが彼女に対しての懺悔のように、私に優しく接してるんだ。



私は顔を上げて、要さんを見た。

目を少し細めて私を見る彼の髪が、風で揺れている。



「私は……要さんが誰を好きだって、責めたりしません」



そう言うと、彼の目は僅かに見開かれた。



「あの時の約束を、義務みたいに思わなくたっていいんです」


「………」


「だから、自分の気持ちに嘘つかないでください」


私をじっと見つめたまま、要さんは1度も目を逸らしたりしなかった。

暫しの沈黙の後、フッと小さく息を吐いた要さん。



「……ったく、情けねぇな」



自嘲気味にそう呟いた要さんのこんな姿を、今まで見たことなんかなかった。

記憶の中にいる要さんは、いつも自信たっぷりで、堂々としていた。



……でも、だからこそ。

そんな姿を見せてくれるのが、嬉しいと思えた。



たとえ彼が他の誰かを想っていても、それでいい。

……ただ、側にいられたら。


この時私は、そんな気持ちに駆られた。