「アンタか、俺の婚約者ってやつは」


静かな怒りが込められた、そんな声。

私は椅子から立ち上がってナフキンをテーブルに置くと、スッと頭を下げた。



「初めまして、藤島伽耶です。今日からこちらでお世話になります」



私がそういうと、彼の口元は不機嫌そうに歪められた。

ドアに寄りかかり、腕を組んだ彼と視線がぶつかる。



「俺は認めてねぇぜ?所詮親が勝手に決めた結婚だ」


「要様!」


間島さんが間に入って、私に頭を下げる。

その間もずっと、彼は私を睨みつけていた。

部屋の中で料理の配膳をしているメイドたちも、心なしか気まずそうにしている。


「……でも、私はあなたと結婚するつもりでココへ来ました。だから、親が勝手に決めたものであろうと、認めてもらわなくては困ります」


認めないと言った彼を逆撫でするようだけど、私はハッキリとそう言った。



だって、今更私に帰る場所なんてない。

半ば追い出れるような形で家を出てきた私に、帰る場所なんてないんだ。



苛立った表情の彼が、半開きだったドアを左手でダンッと叩いた。




「俺はお前と婚約する気もなけりゃ、結婚する気もない」




キッパリとそう告げる彼に、私を受け入れないという意思がはっきりと見てとれる。



「絶対に、だ」



それだけ言うと、彼は身を翻して部屋を出て行ってしまった。

ドアがガチャンと大きな音を立てて閉まり、しんとなる広間。

私が立ったままドアを見つめていると、間島さんが側にやってきた。