こうして要さんと私の婚約は正式に結ばれることになり、後に引けない状況になった。



ニューヨークに来るまでは、曖昧だった私の気持ち。

だけど、昨日の彼の言葉を聞いて私の決心も固まった。




帝桜祭の準備で、初めて優しさに触れた時。

お喋りな私を見て、ククッと笑う姿を見せた時。

エレベーターでかけてくれたジャケットの香りに包まれた時に。

私の中で、彼の存在が少しずつ大きくなっているのを感じてた。



ロビーのソファに腰をかけて、道行く人の波を眺める。

今日の晩ご飯も、お父様が紹介してくれたレストランで要さんと食事をする予定だ。



「伽耶」



突然呼ばれた、私の名前。

この呼び方で私を呼ぶのは、両親か夏希ちゃんくらい。

でも、


―――この声って。


その声の主が誰だか分かった私は、驚きの所為で振り向くのに時間がかかってしまった。

だって今までは、そんな呼び方なんかしなかったから。

何だかそれだけで、ドキドキする。



私が振り返った先にいたのは、少し気だるそうな様子の要さんの姿。




「、何ですか?」


「...食事の時間だ。葉山がもう外で待ってるぞ?」



プイと顔を逸らした要さん。

相変わらず大人っぽいスーツをビシッと着こなした姿は、もはや高校生には見えない。

彼は「早く行くぞ」と私を急かして、エントランスの方へと歩き出す。


「あ、ちょっと待ってっ」


置いていかれないようにと後ろを追いかけた私は、その背中を見つめながら思う。



ニューヨークに来る前には、想像もしてなかった。

こうして彼とこんな会話が出来る日が来るなんて。



あの時思っていたように、このニューヨーク滞在で私たちの関係は変わった。

それが幸なのか不幸なのかは、今はまだ分からない。

だけど、動き出した歯車が。

どうか狂うことなく、回ってくれるようにと私は強く願った。