温もりを抱きしめて【完】

「今日はありがとうございました」


店の外へ出た私は、頭を下げてそう言った。

顔を上げると、お父様は複雑そうな顔をして私を見ていた。


「こちらこそ、今日はありがとう」


お父様は改まった感じで背筋を伸ばす。



「……ホントに、いいんだね」

「子どもの頃から、こうなる事は分かってました。それが家の為になるなら、構いません。ただ…」


私はそこまで言うと、言葉を噤んだ。

ここで彼女のことを、私の口から言うのは憚られた。

黙ってしまった私を見て、少し笑みを浮かべたお父様。


「結婚のことは、今は考えなくていい」

「……ハイ」

「ただ……要のことを、よろしく頼むよ」



お父様は、随分と要さんのことを心配してるようだった。

その理由は、さっきの要さんの答えにあるんだろうけど。

こんな事になってしまったのを一番後悔してるのは、お父様なんじゃないかと思った。



「分かりました」


私の返事を聞いて、お父様は少しほっとしたような表情を見せた。

腕時計にチラリと目をやると、改めて私を見る。



「じゃあ、またね」

「お気をつけて」



私はもう一度礼をして、こちらに手を振るお父様を見送った。

その姿が見えなくなると、くるりと元来た道を戻って、要さんの待つ部屋へと向かった。