爽やかな風が教室に流れ込む。

夏が待ち遠しくなる6月初め。

休み時間に颯大は化学の予習をしていた。

周りはみんな夏の予定などを楽しそうに話し

ている。

颯大はそんな人たちを視界にいれないように

予習に集中した。集中せねばならなかった。

颯大は友達がいなかった。

高校2年の初め、颯大はこの学校に転入して

きた。

この学校では良い思い出をつくりたくて、

最初は友達をつくろうと頑張ってきた。

しかし、去年から同じメンバーのクラスメー

トと仲良くなるのは、颯大には難しかった。

特に女子とはまとも話せないのだ。

彼はずっと一人で過ごしてきたし、

これからも一人で過ごすんだと思っていた。



梅雨が明けた7月初め、颯大はいつものように

ホームルームが終わったあと、すぐに帰る

支度を始めた。

その時、学級委員長の大橋がみんなの前で

言った。

「9月に文化祭があるのはみんなわかってる

よな?俺らは今年も演劇をやるってことでい

いか?」

大橋はいわばクラスの中心人物。

見た目もイケメンで、性格も優しく、ユーモ

アもあってよく授業中もクラスを盛り上げて

る人物だ。

もちろんクラス中で賛成の声があがる。

颯大は何も言わなかった。

苦手なのだ、彼みたいな人が。

きっとあいつは裏があって計算高い嫌なやつ

に違いないと思い込んでいた。

そう、あの日までは。