やばい。相良さんの一言一句に、感情が揺さぶられる。
「何でですか?」
「何でって、まあ近く通ったし。顔見たいなあと思って。そしたら休んでるって聞いてさ、もしかして俺のせい?」
「もしかしてじゃなくて、そうです」
「ああ、やっぱり? お見舞いのお礼に、お見舞い行こっか」
「それでまた相良さんに移るっていうオチじゃないですか。大丈夫です、もう良くなりましたから」
「そっか、それは良かった」
ほっとしたように声が和らぐ相良さんに、ぴしゃりと言った。
「全っ然、良くありませんから。相良さんが、誰にでもあんな風にウイルスを撒き散らすような人だと思いませんでした。許せません。歴代のカノジョさんが、相良さんのことを放っておいても大丈夫って判断したのが、解せません」
「はい……すみません」
「私は、市原さんよりも相良さんの方が、放って置いたら駄目な人だと思いますけど。口は悪いし愛想はないし、掴みどころのないウナギみたいだし。放っといたら暗がりに潜りこんで、一人でねじれて捻くれちゃうんですよね。こじらせてますよね、結構」
恋愛慣れしている分、駆け引きや失望することにも慣れている。本気を温存したままの相良さんは、ずるい。
それを引きずり出すのは、私次第だと言われた。
「……言うねえー。こじらせてる、か。そうかもな。で?」
トーンダウンする相良さんに、私は全力で立ち向かおうと思う。引っ掴んで引きずり出して、ねじれたところを一つ一つ、解いていけたらいい。
根気のいりそうな恋は、まだ始まったばかりだ。
~約束果たします代行人~Fin.~