「ああっ、あの子か! 市原ゆうが……そんな名前だっけ? あっ、『ゆうくん』だ、ゆうくん!」

 姉も思い出したようだ。

「懐かしいなあ~、もう十年も経つのかあ。どうしてるのかなあ、ゆうくん。てか、これめっちゃロマンチックじゃない? 十年前からタイムトリップしてきた手紙だよお」

「これって、タイムカプセルみたいなもの? 十年後の自分に手紙を出そうとかっていうサービス、どっかで広告見たことある」

「そうそう。確かゆうくんのお母さんが、そういうサービス使って、十年後に届くように出しといてくれるって言ってた気がする。うわあ~、すごい! 本当に届いたんだあ」

 興奮してる姉に、心配になる。

「でも、会いに行けなくない? 十月の三番目の日曜って、もう四日後だよ。利乃、こっち帰ってくるの?」

「まっさかあ~、そんなんでいちいち帰れるわけないじゃん。大体、ゆうくんだって来るとは限らないし。わざわざ帰国して待ち合わせ場所まで行って、すっぽかされたら笑えないし」

 急にテンションを落として、姉はぼやいた。

「日本にいたら、行ってみるんだけどなあ~。大人になってるゆうくん、見たいもん。かっこいいバスケ少年だったもんねえ、絶対イケメンになってるよ。あ、分かった! 美緒、代わりに行ってきてよ。で、どうだったか教えて。お願いっ!」

「えっ、ええ? わたしが!?」

「うん、どうせ暇でしょ? 家にひきこもってないで、刺激味わってきなよ。あ、もし会って変な奴に成長してたら、用事あるって言ってすぐ帰ってきたら大丈夫だからさ! カレシいるっていえば大丈夫だよ」

「ええっ、そんな……」

「どうしても嫌だったらいいけど。せっかく面白そうなのになあ~。まあ気が向いたら、行ってみてよ。報告よろしく♪ じゃあねっ」

 元々押しの強い姉は、留学してからますます強引になった気がする。まあ異国の地で暮らしていくには、自己主張して逞しく生きていくしかないんだろう。
 明朗活発な姉とは違い、わたしはできるだけのんびりと、休日は家で小説を読んだり、映画のDVDを観て過ごしたいタイプだ。

 勿論カレシもいない。中学のときに隣のクラスの男子に告白されて、一応付き合い始めたけれど特に何をするわけでもなく、距離が縮まる前に疎遠になって、自然消滅。

 彼を「付き合った人数」にカウントしていいのなら、カレシいない歴は六年で、カウントしなければ二十年だ。