残念なことに、男たち二人が想像するほど思い出の少女――、姉はロマンティックな女じゃない。
ゆうくんとの思い出はすっかり薄れていたし、十年後の約束は忘れていた。
代理で会ってきた私から『幸せに暮らしているゆうくん』の近況を聞いて、満足して終わっている。
それは市原さんと相良さんの希望通りだし、わざわざ真実を伝えたところで、誰にもメリットがない。知らぬが仏だ。
「そんなに気になるってことはさあ、好きなんじゃない? その男のこと。どうせイケメンだったんでしょー。女だって攻めなきゃ! 待ってたら連絡もらえるとか思ってたら、横から来た女にさあーっと、さらわれちゃうんだからねえ! 行けえ、GOGO! 美緒ー!」
姉のチアガールのような声援を受けて、多分血迷ってしまったのだろう。
掛けてしまった、相良さんの番号に。
“そんなに気になるってことはさあ、好きなんじゃない?”
嘘だ、それはない。
でもどうしてこんなに、気になるんだろう。相良さんのことが。
ああ、そうか。あのインテリ眼鏡をかけて誤魔化した、相良さんの本質が、もっと知りたい。興味を抱いてしまったからだ。
「――はい、相良」
夜の七時すぎ、かけた電話に出た相良さんは、しゃがれた声をしていた。