自転車を押していた手が止まった。
「美緒ちゃんって、とろくさそうに見えて鋭いんだね」
「とろくさそうに見えてっていうのは、余計です。放っといてください」
相良さんは本当に口が悪い。
でも意外と素直だ。市原さんの彼女が好きだと、こうもすんなり認めるとは思わなかった。
「そう? 女の子は放っとけないって思わせるほうが、得だと思うけど。ああ、別に女に限んないか。俺は一人でもやっていけそうだから、必要とされてる気がしないって、振られた。悠の彼女に」
悠くんの彼女の亜衣さんは、相良さんの元カノらしい。
「俺が亜衣に何もしてやれなかった分、悠に託したのに、あいつホント全然駄目でさ。でもそういうとこが放っとけないんだってさ、女曰く」
独り言のようにぼやいて、相良さんは足を止めた。
「あー…、俺酔ってんのかな。初対面の女にこんな話して、かっこわりい」
動きがフリーズするほど後悔に襲われているらしい相良さんに、今までよりも親しみが湧いてくる。
「初対面じゃないですよ。会うの、二回目です」
言ってから、ちょっと違うなと思った。
「あ、……相良晃人さんとして会うのは、初めましてですけど」
改めてまじまじと私を見て、相良さんは苦笑した。
「まさか、高校生が飲み会に来るとは思わなかったし」
「高こ……私、大学生ですよ。成人してますから」
「ん、びっくりした。カフェで会ったときは、高校生だと思い込んでたから。女子大生にしては、なんていうか……幼いよね」
相良さんにしては、言葉を選んだらしい。女子大生にしては、垢抜けていない、芋くさい、ガキっぽい、と言いたいんだろう。
童顔ですとんとした少年体型の私は、お化粧は苦手だし、お洒落のセンスがないという自覚もある。
「すみません、色気なくて」
「俺は、ないほうが好きだけど。ここ、うち……上がってく?」
ちょうどアパートの前で立ち止まっていると思ったら、ここが相良さんの自宅らしい。
こんな近くだったとは。