約束の3月29日、私はバーを訪れた。

「いらっしゃい、千沙さん」

カウンターから私を迎えてくれた伊地知くんに、
「こんばんわ」

私は会釈をすると、カウンターの方へと歩み寄った。

「あれ…?」

テーブルのうえに、ガラスの花瓶が置いてあることに気づいた。

そこに活けられている花は、バラだった。

真ん中の白いバラを何本かの赤いバラが囲んでいた。

変わった活け方だな。

そう思いながら、私は椅子に腰を下ろした。

「千沙さん」

私が座ったことを確認すると、伊地知くんが私の名前を呼んだ。