20歳を過ぎてから訪れた初めての恋を思い出していた私に、
「――もったいないですね」

伊地知くんが言った。

「えっ?」

いつの間にか、伊地知くんの顔が私の間近にあった。

「恋をすることは人生で最も大切なことなんですよ。

それをしないのはもったいない」

伊地知くんが言い終わった瞬間、私の唇に温もりが触れた。

一瞬だけ触れたかと思ったら、すぐに離れた。

私…今、キスされたの?

そのことに呆然としている私に、
「俺と試してみませんか?」

伊地知くんがニッと白い歯を見せて笑った。

 * * *