映画館を出たとたん、私の右手は伊地知くんの手に繋がれた。

思わず伊地知くんの顔を見たら、
「消毒」

彼は得意そうにウインクをした。

消毒って…。

何ちゅーことをするんだよと思ったけれど、それに対して嫌悪感を抱いていないことに気づいた。

「千沙さん、何かあったら俺にいつでも頼ってきていいですからね」

伊地知くんが言った。

繋がれている右手がギュッと強く握られる。

「1人で抱え込んでいるよりも、誰かに頼った方がずっと楽ですよ。

だから…」

伊地知くんはそこで言葉を区切ると、
「俺だけを見てください」

そう言って、私の顔を覗き込んできた。