「謝る相手はこっち」

伊地知くんは私を指差した。

「すみません!

本当に申し訳ありませんでした!

ですから、警察には通報しないでください!

本当に勘弁してください!」

デブ男はペコペコと躰を2つ折りにして私に謝ると、その場から逃げ出した。

「こう言う時に身内におまわりさんがいるって言うのは得だよな」

逃げて行ったデブ男の後ろ姿を見送ると、伊地知くんはスマートフォンをポケットに入れた。

それから私に視線を向けると、
「千沙さん、大丈夫でした?」

そう言って、伊地知くんは私にハンカチを渡してきた。

「俺はここで待ってますから、トイレに行って手を洗ってきてもいいですよ」

そう言った伊地知くんに、
「ありがとう…」

私は彼の手からハンカチを受け取ると、トイレの方へと足を向かわせた。