「千沙さんのことをもっと知るいいチャンスだったのに…」

伊地知くんは残念そうな顔でそう呟いた後、グラスを磨き始めた。

そんな顔でそんなことを言われてしまったら、私はどうすることもできない。

「――映画…」

そう呟いた私に、
「えっ?」

伊地知くんは聞き返した。

「私の好きなものは映画よ。

まあ、誰かとつるんで見るものじゃないって思ってるけど…」

ああ、もう私は一体何を言っているのだろう?

でもこの間の休みのように1人で見に行っているのは事実な訳である。

正文も映画は好きだけど、彼とは1度も一緒に映画を見に行ったことはなかった。

人混みは苦手で、お目当ての映画のDVDが発売されるのを待って、それを家で――私の家でと言う時もあれば、彼の家でと言う時もあった――一緒に見ると言うのが定番だった。