どうしてうなずいてしまったのかは、自分でもよくわからなかった。

構って欲しくないって思っていた。

私のことをあきらめて欲しいと思っていた。

だけど…私を抱きしめてくれた伊地知くんの腕は、温かかった。

この温かい腕の中から出たくないと思った。

「千沙さん」

伊地知くんの手が私の肩に触れた。

男らしい、大きな手だった。

「話を聞きます。

だから、中に入ってください」

そう言った伊地知くんに、私は首を縦に振ってうなずいた。

彼に肩を抱かれた状態のまま、私は店の中へと足を踏み入れた。