「もうお店が始まるんじゃない?

私にはかさを返しにきただけなんでしょう?」

呟くようにそう言った私に、伊地知くんはやっとドアをつかんでいた手を離した。

「千沙さんが何と言おうと、俺は絶対にあきらめませんから」

最後に伊地知くんはそう宣言すると、ようやく私の前から立ち去ってくれた。

彼の後ろ姿が見えなくなったことを確認すると、すぐにドアを閉めた。

「いつでもいいって言ったのに…」

そう呟いてかさを広げると、玄関に置いた。

「私に構っている時間があるなら、さっさとあきらめてよ…」

恋愛に向いてないって言っているんだから、早くあきらめてよ。

玄関を後にすると、キッチンの方へと向かった。

雨はまだ降っていた。