「どうも」

一言だけあいさつして会釈をすると、彼の前から立ち去ろうとした。

「ああ、待ってください」

伊地知くんが私を呼び止めた。

「何よ」

そう言い返したら、
「すみません、入れてくれませんか?

急に雨に降られたから、かさ持ってきてないんです」

伊地知くんはお願いと言うように両手をあわせた。

「どうしてよ?

コンビニでビニールのヤツを買えばいいだけの話じゃないの」

そう言った私だったけど、この辺にコンビニがなかったことを思い出した。

「オーナーに頼まれて買い物にきたので、持ちあわせがそんなにもないんです」

言われて見ると、伊地知くんの格好はバーテンの制服姿だった。

手にはエコバックがあった。