「悪口は嫌い」

隣を歩く村田さんが真っ直ぐ俺を見てそう言った。

「いや、悪口っていうか……」

しまった。

ついいつものように軽口を叩いてしまった。

普段ならもう少し過激な発言をしても笑ってもらえるのだが、村田さんの場合はそうはいかなかったようだ。

困って頭をかくと「野間君はきっといい人だよ」と、言って来た。

俺は驚いて村田さんを見た。

村田さんはいつもの無表情で、今の言葉が本心からなのかどうか理解できなかった。

「うん。俺もそう思う」

野間は大人しいだけで人に優しくできない人間じゃない。

……と、思っている。

「で、野間君って本当はどんな人?」

小首を傾げてそう質問されて、俺は一瞬言葉に詰まった。

野間がどんなやつかって?

そんなの見ての通りだろう。

「大人しくて、本田と一緒に将棋の雑誌を見ているようなヤツ……なんじゃないかな?」

俺は見たままを素直に答えた。