「なにしてるんだ?」

そんな彼女に話しかけたのはこれが初めての事だった。

自分の心臓が自分の声に反応してドクンッと跳ねるのを感じる。

村田さんは地面からこちらへとゆっくり顔を向けた。

その容姿はとても可愛らしく、不思議ちゃんじゃなければ大抵の男が鼻の下を伸ばして村田さんのお尻をついて歩いていただろう。

村田さんは黒目の大きな両目を見開いて、俺を見た。

「虹を見てた」

思いもかけず村田さんから返答があり、俺の方が一瞬とまどってしまった。

村田さんに話しかけて普通の日本語が帰って来るとは思わなかった。

てっきり異世界語で会話をしているものかと……。

「虹って……?」

俺は宇宙人にでも近づくように恐る恐る村田さんに近づいた。

グランドは水まみれでグチャグチャだ。

早いところ水を止めさせて、さっさと帰ろう。

「これ」

村田さんはそう言うと、ホースから出ている水を指さした。

確かにそこには小さな虹ができている。

「そう、よかったね」

俺は曖昧に頷き、そしてホースの片方が突っ込まれている蛇口をキュッと閉めた。