「ま、まさか・・・、そんな・・・。」


しかし、急遽進路が逆になった・・・。


南へ・・・。


士郎の予感は確信に変わりつつあった・・・。


“蜀”


という旗


劉という旗


がはためいていたからである。


そして、誰一人洋服ではなく、和服のような出で立ちであったこと。


髪は男性も束ねているだけということに。


士郎はかなりな動揺をしつつも、似たような光景を見ていたので、わかったのである。


ここは、何時のどこであるのかが、大体。


「理沙子、おい理沙子」


彼らは一人に一頭ずつの馬に乗っていた。でも縄は前後に繋がれていたのである。


理沙子はなれない馬の上で憔悴していた。


「士郎ちゃん。」


答えるのが、やっとであった。


「いいか良く聞けよ。俺達はとんでもないところへ、来てしまったんだ、残念だけど。」


「とんでもないところって?」


「中国は中国でも、大昔の中国、それも三世紀の・・・。」


「士郎ちゃん、大丈夫?そんなことあるわけないし。だいいち、時間を遡ることなんて、出来ないんだから。」


「いや、残念だけど間違いない。本当だ・・・。」

士郎はここが三世紀である理由を告げた。


理沙子には、そう簡単に把握は出来なかった。しかし、彼女にも異変は感じられた。

彼女は泣き崩れた。


「家に帰りたい・・・。」


士郎は彼女の涙を見て更に自分も動揺したが、意を決して


「辛いのはわかる。だけど、ここで死ぬわけにはいかない。帰らないと、あの時代に。」

「でも、どうやって?」

「わからないけど、今は生き抜くんだ。」


士郎は自分も挫けそうであったが、理沙子のために辛うじて踏み留まっていた。理沙子を守りたいとの気持ちだけが支えであった。

“とりあえず、どこへ連れていかれるのか”

[到成都]の石碑が見えて来た。