「季蛍さんは?」
医局へ向かう途中、鉢合わせた港が首を傾げて聞いてきた。
「季蛍?」
「あぁ…いや、この前のお礼でお菓子持って帰ってもらいたくて」
「お礼?いいよ、そんなの」
「いや、陽も渡して欲しいって言ってたし」
“季蛍さんマフィン好きでしょ?”
と付け足して、手に抱えていた白衣を羽織る。
「今日休みなんだ」
「そうだったんだ。次明日?」
「うーん、体調良ければ明日」
「…。」
詳しいことは話していないのにも関わらず、まさか…と察したように苦笑いを浮かべる。
「熱?」
「…いや?」
「吐き気とか?」
「大丈夫、大したことないから」
「隠す方が怪しいわ」
「ふふ、本当に大丈夫だから」
「うちが移したな」
「違うよ」
否定するものの、港はため息と謝罪を繰り返す。
「ちょっと熱があるだけ」
「季蛍さんに止められてるんだろ?俺に言うなって」
「そうじゃないけどさ」
「本当にごめん。連絡するけど謝っといて…?」
「本当に今は発熱だけなの。大事を取って休んでるだけ」
「これから来る」
「どうかな」
「やっぱり断るべきだったわ」
「やめてよ、今度行きづらくなる」
「だってさあ…」