「熱いよ」
腰を下ろした奏太が、サイドテーブルにマグカップを置いた。
ほっとする甘い匂いが漂う。
「ありがとう…」
マグカップがふわふわと湯気を立てている。
今すぐには熱くて持てないだろうとわかっていたが、取っ手に指を掛けた。
「今日は諦めたら」
「絶対に行く…だからその気でいて」
「説得力ないけどな」
顔を見て笑われたのが悔しかった。
実際のところ自分だってわかってる…
だけど諦めきれないんだ。
「たまには家で」
「私は大丈夫だから…」
怠さと痛みと不快感。
外出どころじゃない。
一番わかっているのは私なのに、ワガママを言ってしまう。
面倒くさいだろうな、と思いつつ、最後の悪あがきをしたくなる。
カップに口をつけ、少しずつ流し込んだ。
熱さのあと、ほんのりと甘さが追ってくる。
おいしい。


