「すみません」
会計を終えて店を出ようとすると、見覚えのある女性に声を掛けられた。
相手が口を開くまでに、ついさっき店の入口で見た顔なのだと気がついた。
「もう帰っちゃう感じですか?」
「…なにか?」
「お時間あれば、一緒にどうかなって思って」
「ごめんなさい、どっちも相手いるので」
相手の言葉に被せて返事をする奏太に、苦笑いが隠し切れない。
諦めた様子の二人を背に店の外に出ると、低い声が聞こえた。
「諦めが悪いな」
「ふっ…奏太 目が笑ってなかった」
「入り口にいた人だよね」
「多分そう」
「メンタルどうかしてるよ」
「ブチ切れじゃん」
「ブチ切れだよ」
冗談ぽく笑った奏太と外に出ると、雨はそう強くなっていなかった。
湿度の高い嫌な空気が身を包む。
「奏太、車?」
「タクシーで来た」
「じゃ、送るよ」
「んー、いいの?」
「どうせ通るし」
「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとう」
「いーえ」


