「愛香」
「…」
「話は全部聞く」
「…」
「ひとりで悩むのやめようって、そう決めたでしょ」
手の震えを感じ取り、包むように握る。
「俺も、愛香も」
「…ん」
「俺ら他人じゃないから」
胸の中で頷くのがわかった。
少し沈黙が続いたあと、言いづらそうに口を開く。
「それでも、奏太の人生、だから」
絞り出したような声。
確かにいま、そう言った。
絞り出した声だったが、聞き取りに誤りはないだろう。
「俺の人生が何?」
涙が溢れるその目に光がない。
再びシャツを握る力が強くなる。
それを、背中で感じ取る。
「決断は早いほうがいいと思う」
言っている意味は理解できたが、本気でそう言っているのがわかり、納得がいかなかった。
不安な気持ちになる理由が、それなのだと。
「子どもを理由に別れるって?」
考えもしなかった選択肢。
病院に二人で行ったあの日から何度も話はしていたはずなのに、そう思わせてしまうのが悔しくもあった。
「何も考えずに結婚したわけじゃないんだぞ」
止まらない涙を拭う手が止まり、俯かないよう顎に手を添えた。
充血した目が離せなくなる。
「その程度の覚悟で一緒になったわけじゃない」
「…」
「だからもう言わないで、そんなこと」
「ん…」
「不安にさせてごめん」
乱れた呼吸の中に、何かを伝えようとする声。
「愛香だけしんどいね」
「…グス、ッヒッグ…ッ」
「ごめん」
足りない酸素を探すかのように、短い間隔で息を吸う。
「過呼吸なっちゃうよ」
「ッグ…ヒッグ…」
握っていた手が振り解かれ、背中に回された。
不規則に呼吸を繰り返す上半身をそのまま抱き寄せ、背中を擦る。
「一人で悩むのは今日で終わりにして」
「ん…ごめ…」