もう大丈夫、と首を振った愛香をソファに残し、夕食を済ませた。


が、未だソファに気配がある。


あれだけ先に寝てろと言い聞かせても、あんなところにいるのだ。





覗けば寝息が聞こえてきた。


頬に一筋涙の跡。


名前を呼ぶが、返答はない。


完全に夢の中だ。





体を抱き上げようと両腕を回したら、聞こえていた寝息がピタリと止んだ。


ぼんやり開いた目。


視線が合う。




「ベッドで寝てよ、冷えるから」


「いや…待ってたの」




離そうとした両腕を掴まれ、背中に手を回す。



「先に寝てたらいいだろ」



お決まりのようにワイシャツに顔を埋め、びくとも動かない。


胸の中で感じる心臓の音。


首で体温を感じる。


あったかい。





「奏太に会いたくなっちゃうの」


「……」


「…ごめん。今だけわがまま聞いてほしい」




背中のワイシャツを両手で握りしめ、涙声でそう言った。


胸の中で受け止めていた心音が少し早く感じる。


背中に添えていた片手を頭に乗せ、髪の毛を撫でた。






「愛香」


「…ん」


「顔見せて」


「…や」


「泣いてんの?」


「……」




ワイシャツを握っていた力が少し弱まった。



左手で顎を掴み、軽く持ち上げる。



下唇を噛み、とても辛そうな表情をしていた。






今にも零れ落ちそうな涙をどうにか落とさないようにと、顔が上がった。



いずれは流れてしまうのに。







「泣いていいよ」



「…っ」



「我慢、しなくていいよ」





結局 ぽろん、とこぼれた涙。



指でそれを拭い、静かな泣き顔に思わず笑ってしまう。





「そ…たぁ…」


「はは、追いつかないな」





親指を目尻に当て、溢れる涙を受け止めるように拭った。