また、瞼が持ち上がる。


体は疲れているはずなのに、何度目を閉じても眠りにつくことができない。


寝返りを打ち、少しばかり腕を伸ばした。


十分に余ったスペースが、今は少し寂しい。





目を閉じていても、嫌なことばかり頭に浮かび、携帯電話を見ていると 不安な情報だけが目に入る。


季蛍にあれだけ励ましてもらったはずなのに、話を聞いてもらったはずなのに、再びの不安感が拭えない。


一度は解消したはずだった。


ひとりになったら、また訪れた。





無理に目を閉じると、パタン、と扉の閉まる音が聞こえた。


寝室にいても、その音は聞き取れた。




リビングの電気をつけている余裕はなく、小走りで玄関へのドアを開けた。


首をひねった奏太が、その場に鍵を置いた。





「どうかしたの」



不満そうな声が聞こえたが、引き返すほど弱くはない。


押し返されたりする前に。


面倒くさそうな目を見る前に。






背広をぎゅっと握りしめ、ワイシャツに目一杯顔を埋める。


安心感を求めたはずなのに、広がるのは消毒の匂いだけ。


病院の匂いだけ。





「愛香」


「……」


「ただいま」


「……」


「中に入らせて」




私が腕を離さなくても、奏太はそのまま靴を脱いだ。


胸に顔を埋めたまま動かないこともお構いなしに、ズルズルと室内へ。





「先寝ててって言ったでしょ」


頭に手を乗せた奏太が そう言ってため息を吐き、髪に手を通した。




「愛香」


「ん」


「どーしたの」


「…どうもしない」


「玄関まで来ちゃってさぁ」




胸を押されるが、今回ばかりは絶対に離れない。


絶対に諦めない…