「ごめん。仕事の連絡」
店の外で電話を済ませた奏太が、足早に着席した。
「一泊くらいしていきたい気分だな」
「はは、そうだね」
「長い休みがないと無理だ」
「2人で行ったりするの?旅行」
「愛香と?最近は全然」
「そっか」
「そっちはよく行くんでしょ?2人で」
「うーん、昔はね。今はほら、子供いるし」
「やっぱり減るの?そういうの」
「減るよ。こういうところより、遊べるような場所を選ぶようになるし」
「…確かに」
「子供が出来る前に やっておきたかったことって結構あるかな。昔は考えなかったけど」
「…つまりデートね」
「…ん、まぁ」
時折ぼーっと一点を見つめる様子から、大分疲れているのだろうと思った。
窓の外に目をやり、微かにため息を吐く。
キツそうなネクタイを少し緩め、こちらの視線に気がついて じんわりとはにかむ。
「2人でいる時間が長いっていうのも、いいかもしれないな」
ボソリと呟く声に、勝手な憶測が頭に浮かぶ。
「…しばらくは考えてないの?」
その問いに顔を上げた奏太は、口角を上げたあと 数回首を縦に振った。
「無理かも、みたいな」
「……え?」